Samurai Journal of Chemistry

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【実験】アミン系化合物の取り扱い

今回のトピックは、取り扱いが厄介なアミン系化合物についてです。

あくまでもアミンであり、複素環(ピリジンやピロールなど)は含みません。

また、塩基性試薬に関しては、別記事がありますので、そちらを参照してください。

 

 

全ての取り扱いづらさは 塩基性や求核性に由来する

アミンは塩基や求核剤として働くので、酸や酸素、その他求電子剤と反応してしまいます。

その反応性や反応後の分解パスはアミンの級数により大まかに分けることができます。

 

【1級アミン】

・2つのプロトンを有する

・2つの水素結合ドナーと1つの水素結合アクセプターを持つ

・立体障害が小さい

・極性が高い

 

反応性

 1つ以下のアルキル基が結合した窒素原子は高い求核力を有しているため、様々な求電子剤と反応してしまいます。特に、アルキルハライドやアルデヒドとは速やかに共有結合を形成するので、共存困難です。

 

精製法

 一般的に一級アミンは塩酸塩などの強酸の塩にして単離することが多いです。化合物によって最適な酸は異なり、塩酸(HCl)だけでなく、トリフルオロ酢酸(TFA)臭化水素酸(HBr)フマル酸乳酸など、様々な酸が候補になります。全てに言えることは、比較的強い酸が適しているということで、カルボン酸はTFAを除き、基本的にジカルボン酸の塩が使われることが多いです。

 

 フリーアミンを単離したい場合、一度塩できれいに取ってきた後に、陰イオン交換樹脂(OHフォーム)に通して濃縮することでフリーアミンが得られます。ただし、塩基性に不安定な官能基が共存する場合や、フリーアミンの反応性が非常に高い場合は厳しいです。

 

【2級アミン】

・1つのプロトンを有する

・1つの水素結合ドナーと1つの水素結合アクセプターを持つ

・中程度の立体障害

・中程度の極性(dipoler momentは小さい印象)

 

反応性

 アルキル基が置換することにより、立体障害は大きくなるので、一級アミンよりも保護されている感覚です。一方、電子供与性のアルキル基が置換するので、小さな求電子剤との反応性は向上します。

 プロトン化されたアンモニウム塩はアルキル基の電子供与により安定化を受け、結果的に塩基性が向上しますが、β-プロトンを有するアルキル基はβ脱離(Hofmann脱離)して分解してしまいます。β脱離をするかどうかは、β位のプロトンの酸性度や角度が非常に重要です。すなわち、N-C-C-HのN-C結合とC-H結合が平行になる時に最も脱離が進行しやすいので、環状アミンのように固定されたβプロトンを持つ化合物は場合によっては非常に不安定です。

 

精製法

 一つアルキル基が付くだけで だいぶ極性が異なる印象です。アミン系化合物を通常のTLCで展開すると、TLCが酸性なのでテーリングすることや、テーリングしなくても高極性に見えたりします。しかし、トリエチルアミン、ジエチルアミン、アンモニアなどを0.1~1%程度、展開溶媒に足すだけでRf値が驚くほど上がります。シリカの酸性をアミン添加展開溶媒で打ち消すと化合物本来の極性で展開されるということだと考えています。

 

 アルカロイド合成においてジアステレオマーができる反応を行った場合、ジアステレオマーどうしの塩基性に差が出ることがあります。この塩基性の差を利用してシリカゲルカラムで容易に分離できる場合がありますTLCをアミンの添加なしで展開して極性に大きな差が出たら、塩基性の差が大きい可能性があります。アミンを添加したら全く分離しないということもあり、このような場合はアミン添加なしで極力スピーディーに精製します。

 

 アミノシリカゲルでカラムするのも手です。いろいろなメーカーからアミノシリカやアミノTLCが販売されていますので、まず試供品をいくらかもらって試してみると良いです。シリカゲル上にアミンが修飾されているシリカゲルで、アンモニア などを展開溶媒に添加せずにカラムできます。

 

 カラム生成について述べましたが、一つ注意点があります。酢酸エチルは1級、2級アミンをアセチル化してしまうので使用不可です。基本的にCHCl3/MeOH, hexane/iPrOHやhexane/EtOHを使うことが多いです。

 

【3級アミン】

プロトンを持たない

・0個の水素結合ドナーと1つの水素結合アクセプターを持つ

・立体的に大きい

・比較的低極性(dipoler momentは小さい印象)

 

反応性

 窒素原子上にアルキル基が3個置換しているため、塩基性が高くなります。また、酸素とも反応し、N-oxideを与えます。アルキル基がβプロトンを有している場合、プロトン化→β脱離が進行します。プロトンが無いため、求電子剤にアタックした後、N上に脱プロトン化できる水素原子がないため、特にN-オキシドを形成しやすくなります。

 

精製法

 上記の、塩として単離する方法やシリカゲルカラムで精製する手法は同様に使えます。しかし、プロトン化後のβ脱離も酸素との反応性も向上しているので、分解しやすさはナンバーワンです(比較的安定な場合もある)。 全てのアミンに利用可能な方法として、ポリスチレン樹脂などの基剤で作られたゲル濾過(gel permeation chromatography, GPC)が利用できます。分子量の違いにより分離するため、ジアステレオマー混合物は分離できませんが、試薬などと分離するには非常に便利です。

 

TLC

 通常のシリカゲルTLCを使う場合、トリエチルアミン、ジエチルアミン、アンモニアなどを展開溶媒に0.1~1%程度混ぜた溶液で展開します。また、TLCを事前に1%Et3N in hexane溶液に浸して乾燥させたものを使うと、よりテーリングが抑えられます。あまりテーリングしないアミンの場合にはそこまで気にする必要はありません。むしろ、テーリングしないアミンならば、アミンなどの添加も必要ありません。

 

呈色試薬

 1級アミンはPMAやアニスアルデヒドよりもニンヒドリンが優秀です。ニンヒドリン以外の呈色試薬ではほとんど検出されない場合もあるので、必ず試しましょう。過マンガン酸カリウムでも大丈夫ですが、ニンヒドリンの方がアミンが濃く見えるのでおすすめです。アミンを含まない生成物を見逃したくない場合、試薬の位置を確認したい場合、ニンヒドリンでは焼けないことが多いので、PMAなどで焼いておいた方がいいです。 

 2級アミンはニンヒドリンとの反応性が低く見えにくいです。3級アミンは全く反応しません(TLC上で分解した分解物が反応するということもまれにある?)。2級、3級アミンはPMAやアニスアルデヒドで呈色するのがいいです。

 

NMRの測定

・溶媒に関して

 全てのアミンに言えることですが、重クロロホルムはHClを含むので、アミンをプロトン化してしまいます。事前に重クロを塩基性の活性アルミナに通して中和して使用する必要があります。もしくは、酸を発生しない重メタノールや重ベンゼンで測定するのもありです。重水、重ピリジン、重DMSOも利用可です。アセトンは、当然ダメです。

 

・化合物のアルミナ処理

 アミンはプロトン化を受けやすいため、測定直前にアルミナを通してNMRを測定した方がいい場合もあります。特にスケールが小さい場合、空気は基本的にCO2を含むため酸性であり、プロトン化される可能性があり、チャートが酷くブロードしてしまいます。アルミナ処理によって完全に酸を除いてからNMRを測定すると、少量でもきれいにNMRが取れるかもしれません。ただし、どうしてもダメな場合はスケールを上げれば解決することがほとんどです。空気中の酸は極微量なので、数mgスケールのアミンを一瞬で完全にプロトン化する力はありません。5 mg以上くらいのスケールで合成できれば、綺麗なチャートが得られると思います。

 

・加熱測定

 アミンのチャートがどうしてもブロードする場合、加熱測定も効果があるかもしれません。クロロホルムは60 °C, ベンゼンは80 °C, トルエンは110 °Cまで上げることができます。あまり高温にすると化合物が分解する可能性もあるので、クロロホルム40 °Cくらいから試して、徐々に昇温していく方が良いでしょう。多少の昇温でも壊れる場合は諦めて室温で測定します。

 

・その他測定

 この点は小スケール検討をする上で非常に大変な部分で、テルペンなどと比べるとNMR測定の問題で少量検討が難しいです。その反面、イオン化マススペクトル(ESI-MSなど)ではH+フォームが検出されやすいため、通常よりも低濃度で観測できる点は有利なところです。

 

 

以上、いかがでしたでしょうか。文章だけで退屈ではありますが、アミンの取り扱いについてまとめました。お役に立てば幸いです。