Samurai Journal of Chemistry

科学に関わる事を議論していく(コメントによる議論大歓迎)

逆相・HILICカラムを使っていくっ!

HPLCの逆相カラムを保存する時は、最後何の溶媒で置換して保存するでしょうか?

 

A君: 逆相カラムを流すときは溶出力が最も低い溶媒が水なので、水に置換して保存しています。

私: ??!!

先日このようなやり取りがありました。答えはNoなんですが、カラムについて理解していれば、このようなミスは起きません。ということで今回は

 

逆相カラムとHILICカラムの使い方入門!

有機合成化学者は多くの場合化合物の精製にシリカゲルカラムを使うので、逆相カラムとHILIC(ヒリック)カラムの特性や種類、使い方などを知らない人が多いと思います。
ということで、今回はそのまとめをやっていきます。

 

1. 基材の種類について

カラムには、大きく分けて2つの種類があります。1つ目は、シリカゲル上のSi-OH基に置換基を導入したシリカゲル基材のカラム、2つ目は、ポリスチレンやポリビニルアルコールなどの有機ポリマーに官能基を導入したポリマー基材のものです。シリカゲル基材に、何も修飾されていないタイプが、通常使っているシリカゲルです。
(その他、まだあまり普及していないもので、カーボン、ガラス、チタニアなどを基材に用いるものもあるそうです。)

シリカゲル基材とポリマー基材はどのように違うかというと、分離能で優れているシリカゲル基材耐久性で優れるポリマー基材というイメージになります。
シリカゲル基材は、水、酸性条件、塩基性条件などにおいてシリカゲルを構成するSi-O-Si結合が加水分解されてしまうため、使用可能な溶媒範囲が制限されます。
一方、ポリマー基材は、比較的広範なpHに耐性があり、酸性、塩基性の溶液でも劣化しづらい特徴があります。しかし、ポリマー基材のカラムは同一サイズのシリカゲル基材のカラムよりも一般的に理論段数(分離能)が落ちてしまうため、酸や塩基を流す必要がなく、分離能を求める場合はシリカゲル基材を選ぶと良いです。あと、ポリマー基材のカラムはシリカゲル基材のカラムより高価です。

最近では、シリカゲル基材でも、劣化防止のために特殊な加工が施されているシリカ基材のカラムも登場しています。
ジーエルサイエンスから販売されているInertSustainシリーズ(逆相アミドHILIC)は、基材のシリカゲルに炭素架橋が加わり、安定性が向上しているそうです。

 

2. 逆相カラム

基材について理解した上で、その修飾基について見ていきましょう。まず逆相カラムでは、C18やC8, C4といった長さの炭素鎖が修飾されています。C18はオクタデシル基=ODSと呼ばれていて、名前だけは聞いたことがあるという人も多いと思いますが、これは修飾基のことを指しています。それでは、使い方についてまとめていきます。

・修飾基

C18: 一般的な逆相カラムで最も用いられるタイプ。疎水性相互作用は弱い相互作用であるため、親水性相互作用を利用したシリカゲルカラムに比べ負荷量は約1/10程度。
C8, C4: 疎水性相互作用を抑えたタイプ。タンパク質などは、C18では相互作用が強すぎる場合があるため、短い修飾基を使う事が多い。
芳香環系: 上記カラムと分離選択性を変えたいときの候補。

・使用溶媒系

水 / MeCN or MeOH
0.1% TFA-水 / 0.1% TFA-MeCN or MeOH(ペプチド用)
buffer(ギ酸アンモニウムなど)/ MeCN or MeOH(分析用)

このような溶媒系を使うことが多いと思います。アミノ酸やペプチドなど、フリーのカルボン酸が入っている場合TFAを添加することが多いです。
また、分析目的では、ピークをシャープにするためにbufferを入れる場合もあります(10 mMギ酸アンモニウムなど)。分取では塩を取り除く必要があるため基本入れません。

・グラジエントの決め方

逆相カラムは、逆相TLCによる保持時間の予想が難しく、順相カラムのようにTLCから極性を推測するという手法はあまり役に立ちません。まずは、分析カラムでMeCN/H2O 5%→95%のグラジエントで分析してみて、その保持時間をもとに適切なグラジエントを決めるといった具合です。カラムの保持時間と分離には初期極性の適切な設定が重要です。保持時間が短か過ぎる場合分離能が低下し、保持時間が無駄に遅すぎるとピークはブロードして回収率の低下に繋がります。グラジエントは、このピークのブロードニングを防ぐために行うもので、だいたい初期極性から良溶媒の比率を15~25%くらい上げることが多いです。

シリカゲルカラムクロマトのチャート。10minで約1CV、3.8CVくらいから目的物が溶出している。(逆相でいいチャートがぱっと出なかったので順相で許してください。)

 

・保存の仕方

冒頭の話がついにここで出てきました。
カラム出荷時の充填溶媒に置換して、密栓して保存する
これが基本です。なので、カラムの説明書とカラムの箱は捨てないで&なくさないでください(笑)
多くの場合、MeCN or MeOH 95~70%くらいで保存することが多いように思えます。

逆相カラムにおいて溶出力の最も低い溶媒は水ですが、水はあくまでもシリカゲル基材にとっては加水分解を誘発する天敵です。保存時は有機溶媒リッチな溶媒で保存するのがベストです。ただ、有機溶媒(特にMeCN)100%だと微量に残っていた塩の析出などによりカラムが詰まる可能性があるため、水を混ぜて保存します。長期間使わずに保存する場合、乾燥や塩の析出を防ぐため、定期的に送液メンテナンスを行うべきです。

もう一つの注意点として、TFAやbufferを使った後は、必ずHPLCグレードの蒸留水を多めに含む溶媒でカラムを洗浄し、その後に保存溶媒に置換するようにします。酸や塩が残っている状態での保存はカラムの寿命をぐっと縮めます

 

・分取の際の負荷量

逆相カラムは、弱い疎水性相互作用で保持するモードなので、一度に分離できる量が通常のシリカゲルカラムの約1/10程度になってしまいます。ただし、目的物とゴミの保持時間に十分な差がある場合、多くチャージしても問題ないです。検出器の検出限界をあまり超えない程度に、臨機応変にチャージ量は決めれば良いと思います。

 

3. HILICカラム

最も馴染みのないカラムがHILICカラムなのではないでしょうか。HILICとは親水性相互作用クロマトグラフィー(Hydrophilic Interaction Chromatography)の略称で、順相モードの一つです。つまり、シリカゲルカラムと同じように極性の低い順から化合物が溶出します。極性が高すぎて逆相では全く保持されない化合物の分析や分取に使います。
(ダイセルが開発した新しいカラム:DCpak PTZ)

・修飾基

ジオール、ニトリ:親水性相互作用が弱めのタイプ。理論段数は低め。
NH、NH2:アミノタイプのHILICカラムは、アミン類や、糖のアノマー分離を抑える効果があるため還元末端フリーの糖の分析・分取に用いられる。ただし、アミノ基と反応してしまう官能基が共存する場合は使用出来ないときもあります。
トリアゾール:弱塩基性であるため、陰イオン交換能がある。分離モードが他のHILICとは若干異なり特殊なタイプ。
アミド:保持の強い汎用型カラム。ジオールやニトリルに比べて理論段数が上がり、使いやすい印象。
テトラゾールアミド:過去記事で紹介された、ダイセルのDCpak PTZ。アミドカラムよりも更に保持が良いとのことで、分離も良好。テトラゾールは酸性であり、他のタイプとは異なる。
両性イオン型:種類が沢山あるので詳細は割愛します。

・使用溶媒系と極性

基本的に逆相カラムと同じで、水と親水性有機溶媒の混合溶媒です。分析にはピークを立たせるためにbufferを使用することが多く、分取の際には蒸留水を使います。カラムは高価なため、基本的には分析用途の需要が大きいですが、分取サイズも販売されています。特に、ジオール、ニトリル、アミノタイプは山善(株)などから大スケールのカラムが販売されています。アミドタイプはジーエルサイエンスなどから分取HPLCカラムの販売があります。

・保存方法

逆相と全く同じ考え方になります。水豊富な溶媒で保存することや、塩や酸が残った状態で保存することはNGですのでお気をつけください。

 

おまけ:検出器について

高極性化合物である糖や、シリカゲルカラムで分離が悪い糖脂質など扱っていてつくづく感じるのは、ディテクター問題です。UV検出器やPDA検出器(フォトダイオードアレイ)などはコスト面で導入しやすいですが、190 nmをカバーしているPDAでも検出できない化合物はたくさんあります。
そこで、役に立つのが蒸発光散乱検出器(ELSD)や示唆屈折率検出器(RID)です。RIは周囲の環境にかなり左右されるのでベースラインが安定しないことが多い上に低感度ですが、低コストで導入できます。一方、ELSDは高価ですが、RIよりも圧倒的に高感度(10倍くらい)で、化合物に依存せずほぼ必ず検出できます。いやーほしい(笑

 

PDAの原理

ELSD検出器(島津製作所HPより)

 

以上いかがだったでしょうか。私はジーエルサイエンス、島津製作所、Shodexなどのカラムについて解説したページを読んでカラムのことを勉強しています。他にもイオン交換カラムや活性炭カラムなど、特殊な固相担体はいくつかありますし、もっと詳しく知りたい人は是非読んでみると良いと思います。本記事作成にあたっても色々参考にさせていただいたので、URLを掲載しておきます。

ジーエルサイエンス技術資料
島津製作所
Shodex

 

#HILICカラム, #逆相カラム, #保存方法, #ELSD