白いイイ粉
タイトルに深い意味はありません(どーん)
ということで今回は、見た目が真っ白の純粋そうに見える固体試薬を使うときに、意外と罠があるというお話。
前に出した「Dead Reagents」にも、見た目が大丈夫だけど実は「お前はもう死んでいる」的な試薬をピックアップしましたので、興味があれば読んでみてください。
1. NaOMe
大変よく使う試薬だと思いますが、皆さんはどのような形状の試薬を使っているでしょうか。メタノール溶液か固体で扱う事が一般的で、どちらかと言えば固体を使う方がアクティブで良いし、カップリング反応などにも利用できるので汎用性が高いです。
しかし、NaOMeは空気中のCO2と反応して、炭酸ナトリウムを生じる事が最近報告されました。
厄介なのは、見た目が全く変化しない所。だいたい吸湿性の試薬などは水を食ってベチャベチャになったりしますが、CO2と反応して出るのがこれまた白色結晶のNa2CO3ということで、全く見た目で区別が付きません。
個人的には大瓶をグローブボックスに保存しておくのをおすすめしますが、GBが利用できない場合は最新の注意を払って使う必要があります。吸湿性の高いK-tert-ブトキシドやNaHなどもそうですが、開封してからすぐに小瓶に小分けし、厳密にアルゴン置換してスクリューキャップで保存するのが良いです。最近収率が低いなと感じて来たら次のロットを開けて試して見る事ができるので、必ずアクティブなストックは持っておくべきでしょう。
2. M2CO3 炭酸〇〇
「無水炭酸カリウム」を購入しても、たいてい完全な”無水”では有りません。本当に大量に水を食えば大きな塊になりますが、適度に吸湿しているだけでは案外サラサラです。
セシウムカーボネート(Cs2CO3)は比較的サラサラな事が多いと思いますが、極めて危険です。予めフラスコに入れ、高真空下ヒートガンで乾燥させて使うのとそうでないのとで全く別物になります。加水分解などで悩まされる場合、ちゃんと脱水してみると良いかもしれません。
また、死んでいるとかではないですが、粒の大きなK2CO3やK3PO4など(粒径が小さいグレードも売っています!)は溶解度が著しく落ちることや、固体表面積が小さいため、細かく粉砕したFine Powderを使うのと比べて大きく反応速度が変化する場合があります。
K2CO3, MeOHの加メタノール分解などが遅くて困っている場合、ちゃんと粉砕してみてはどうでしょう。
3. Oxone
え、オキソンって死ぬん?と思うかもしれませんが、古くなると、明らかに活性が落ちます。酸化剤は基本的に自己分解性なので、時間経過とともに悪くなります。オキソンは比較的安定な方だと思われますが、だいたい500 gとか1 kgで購入するので、何年も使い切らないでいると活性が落ちます。
IBXを合成する際に不活性なオキソンを使うと、中間体が残存してしまいます。これはただのゴミで、アルコールの酸化活性はありません。
共酸化剤としてOxoneを入れると酸化は進行するかもしれないですが、等量制御が必要な場合はあまりおすすめはできません。
別件ですが、1級アルコールをDMPで酸化した所カルボン酸まで行ってしまった事があります。DMPで共酸化剤も入れずにカルボン酸まで行くことがあるのかとびっくりしましたが、IBXでは綺麗にアルデヒドで止まりました。
市販のIBXは安定剤として安息香酸やイソフタル酸が添加されていますが、合成した純品であれば完全に中性で使えます。酸に弱い化合物の場合わりとファーストチョイスしますね。IBXは水でのクエンチ後、ヘキサンなどの低極性溶媒で抽出すると試薬のカスが完璧に除けるので、低極性アルデヒドを精製したくない時などに結構有効です。
と、Oxoneから話が逸れたのでIBXに変わるOxoneを使ったアルコールの酸化についても紹介しておきます。
以下の記事では、pre-MIBSKという試薬が紹介されています。こちらを触媒量用い、共酸化剤としてOxoneを等量制御して入れることで、アルデヒドおよびカルボン酸を選択的に合成できるとのこと。爆発性のIBXやDMPを使うことなくアルコールを酸化できます。
やはり、Oxoneのactive oxidant %が非常に大事になってきます。
それでは今回はこんなところで。